【底流】ソフトバンク“0円商法”快進撃 「つながりにくい」不満も増幅

ソフトバンクモバイルの快進撃が止まらない。昨年の携帯電話の契約純増数で業界全体の4割を独り占めし、トップを独走した。原動力は、米アップルのスマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」を売りまくる実質0円商法だ。ただ、加入者の急激な増加に基地局の整備が追いつかず、「つながりにくい」「途切れる」といった利用者の不満も増幅しており、“もろ刃の剣”の危うさをはらんでいる。

話題の比較CM

 「つながらないスマートフォンなんて意味ないですよね」

 「あれ、しゃべれないの?」

 KDDIの携帯電話ブランド「au」のCMが話題だ。アイドルグループ「嵐」のメンバーが思わせぶりに語るせりふが、ソフトバンクを揶揄(やゆ)しているのは誰の目にも分かる。ソフトバンクのCMを連想させる白い犬まで登場させるという念の入れようだ。

 業界2位のKDDIが焦るのは無理もないかもしれない。

 「現在の2400万回線に、(買収した)ウィルコムの400万回線がある。2010年代のうちに4千万回線を達成する」

 ソフトバンク孫正義社長は昨年10月の9月中間決算会見で、こう言い放った。12月末で3300万回線弱のKDDIを抜くという決意宣言だ。

 孫社長は5年前に電機メーカー元役員をソフトバンクモバイル副社長に招いた際には、「10年後にはドコモを抜きたい」と奪首の野望を打ち明けたという。

 その発言が、なまじ大風呂敷とはいえないほど、契約は急増している。

3年後には2位?

 ソフトバンクの昨年の契約純増数(新規契約から解約を引いた数)は、前年比63%増の約273万件で、NTTドコモの約177万件、KDDIの113万件を大きく引き離し、3年連続のトップ。業界全体の純増数約644万件の42%を占めた。

 12月末のシェアは20・8%に達し、ドコモ(48・9%)の背中はまだ遠いが、今のペースが続けば、3年後には2位のKDDI(27・8%)に並ぶ勢いだ。

 「0円にはかないっこない」。KDDI幹部は、白旗を上げるかのようにぼやく。

 ソフトバンクがアイフォーンの0円商法を導入したのは平成21年2月。その半年前に鳴り物入りで発売したが、話題ほどには売れず、「アップルから課されたノルマを達成するための苦肉の策」(業界関係者)といわれている。

 16ギガバイトの「アイフォーン4」を2年契約で購入すると、端末代金4万6080円を24カ月に分割し、毎月1920円を通信料から割り引く仕組みだ。つまり2年間使えば、端末代金が回収できる。端末を割賦で購入すれば、月々の支払いが割引分と相殺され、通常の通信料を払うだけで済む。

基地局といたちごっこ

 「3位だからできる販売方法。とてもまねできない」。ドコモ幹部は、苦笑する。

 携帯各社は、かつて0円など安い値段で端末を販売し、その分割高な通信料で回収するビジネスモデルをとってきた。しかし、同じ端末を使い続ける人が不利益になるなど問題点が多く、総務省の指導で是正されたという経緯がある。

 ソフトバンクの0円商法は、かつての0円端末と異なるが、「出自が官業のドコモとKDDIは、総務省の手前、0円はやりにくい」(業界関係者)というわけだ。

 ただ、アイフォーン人気は、逆にソフトバンク基地局不足をクローズアップするという皮肉な事態も招いている。昨年12月末の基地局数は、ドコモが約10万2千カ所、KDDIは約5万5千カ所、ソフトバンクは約4万6千カ所。契約件数の多寡には関係なく、利用者にとって、基地局の少なさは、つながりにくさに直結する。

 孫社長は昨年3月に「電波改善」を宣言。今年3月末に中継局(電波増幅装置)を含めた基地局を7万6千カ所から12万カ所に増やすとぶち上げた。投資額は3148億円に上る。

 ただ、これまで投資を絞り込んできたツケは重く、契約件数の増加とのいたちごっこが続いている。

 「他社から加入者を奪ってきても、ネットワークに対する不満はその後にダメージとなって効いてくる」(JPモルガン証券の佐分博信シニアアナリスト)

 快進撃が続けば続くほど、ブランドイメージが毀損(きそん)するリスクが高まりかねないのだ。(芳賀由明)
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