ヤミ金 恐るべき実態

 気軽な気持ちで借りた2万円が、わずか1カ月余りで数百万円に。職場や子どもの学校に督促の電話がしつこくかかり続けた。違法なヤミ金被害に遭った男性が、深刻な実態を打ち明けた。(伊藤あかり)

 ■2万円が数百万円に 会社解雇 子の学校に電話

 「今こうして存在できているのも不思議なくらい。ものすごくつらい1カ月でした」。昨年7月、ヤミ金に手を出した奈良市の元工員の男性(46)は声を落とした。

 男性は一昨年末、母親の入院費などで消費者金融からの300万円の借金と家のローンの返済が重なり、自己破産。公共料金支払いなどの期限が迫り、「審査なし」と書かれたダイレクトメールの番号に電話した。

 応対したのは、銀行員のように丁寧で優しい口調の男。1週間後に5割の利息を払うことを約束し、2万円を借りたが、返済日はすぐに近づいてきた。お金を返すあてはない。携帯電話が鳴った。見たこともない番号の電話に出ると、「借金にお困りではありませんか」と手を差し伸べられた。

 怪しいと思うより先にほっとした。返済日が近づくと、また新たな金融会社から電話がかかってきて、融資を持ちかけてきた。「とにかく取り立てが恐ろしくて、怖くて。

 普通だったらありえない利息でも、次から次に飛びついてしまった」。気づけば、2カ月で29社からお金を借りていた。

 ●取り立て怖く 次から次

 「今日はあそこにお金を返して、明日は……」。一日中返済のことを考え、夜も眠れなくなった。「電話出なかったら、会社か子どものいる学校に電話するぞ」。常に携帯が鳴った。「話している最中に電池が切れると、電話を切ったと思われるかもしれない」と恐怖に駆られ、コンビニに充電器を買いに走った。すると「充電器買う金あるなら、千円でもいいから振り込めや」と怒鳴られた。

 順調に返済している時は丁寧な口調の業者は、返済が滞ると人が変わった。返済日が1日でも遅れると、「人間のクズ。明日までに100万円を一括で返すなら待ったる」と罵倒された。

 8月のお盆前、借金が数百万円に膨れあがり、司法書士に相談した。違法な取り立てには一銭も払わなくていいと聞いたためだ。

 お盆明けに会社に行くと、案の定、電話が鳴り響いた。「金返さなかったら、会社がつぶれるまで電話するぞ」。四つあった電話回線は常に赤ランプがついた。電話の電源をオフにせざるをえず、2カ月後に解雇された。

 被害は会社だけではなく、次女(12)や長男(10)が通う小学校にも及んだ。

 「子どもが登校する時に困るようなことになるよ。こっちはヤミ金だからやる時はやるよ。早く父親と連絡とれ」。校長や教頭に電話がかかってきた。

 司法書士からは「業者が直接、姿を現すことはない」と聞いたが、気が気じゃなかった。「子どもたちに何かあったら、自分は本当に最低の父親だ」。毎日、子どもが帰宅したかを電話で確認した。

 2カ月近くに及ぶ司法書士の説得で業者の取り立ては落ち着いたが、今も知らない電話番号からの着信はやまない。「リストに名前が入っているのでしょうね。ヤミ金に手を出した自分が安易だったと後悔している。もう2度とあんなつらい夏は過ごしたくない」

 ●周到な手口 捜査難しく

 典型的なヤミ金業者の実態を捜査関係者に聞いた。

 業者は裏ルートで手にいれた名簿に基づき、ダイレクトメールを発送する。名簿には、消費者金融の借金を返済できずにブラックリストに載った人や、自己破産をした人らの連絡先が書かれている。

 申し込みの電話を受けると、家族構成や連絡先などを聞き、自宅や仕事先に確認の電話。地図で家が実在するかも確かめる。踏み倒しを目的に偽の身分証などを使って金を借りる人を避けるためだ。そうして健康保険証や免許証などをファクスさせ、1万〜3万円の小口の金を貸す。

 口座が凍結されても困らないよう、常に20〜30の口座を持つ。返済できない債務者から買ったものだ。足が付かないよう、振込先の口座は頻繁に変え、当日債務者に電話で伝える。「口座から犯人への手がかりが得にくい」と捜査関係者。金を借りたことを知られたくない被害者が多いことも、捜査を困難にしているという。

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 ■「そもそも違法、払う必要ない」

 ヤミ金被害者らの相談に乗っている団体に、弁護士や司法書士らでつくる「奈良若草の会」(奈良市)がある。川合俊輔事務局長(33)にどう対処しているのか聞いた。
 被害者にはまず、「元金も含め一円も払う必要がない」と説明している。「そもそもヤミ金自体が違法なので、元金も利息も関係ありません」と川合さん。誰にいくら借り、いくら返したのかを整理後、「一切返さない。返した分は戻して」と本人に電話させる。「ヤミ金は怖いことを理解してもらうため、あえて本人にかけてもらっている」。途中から司法書士が代わり、交渉するという。
 次に警察署に被害届のほか、犯罪利用口座の凍結や携帯電話の不正利用停止を要請する書類を提出。しつこい業者は司法書士が繰り返し説得するという。
 川合さんは「ぎりぎりにならないと相談に来ない人も多い。相談はなるべく早めに」と呼びかける。問い合わせは同会(0742・25・0525)へ。相談は無料。入会金3千円、月会費1千円。

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 ■ヤミ金

 都道府県知事への登録をせずに貸金業を営む業者のこと。出資法の規制をはるかに上回る高金利で金を貸す業者がほとんどで、名称の異なる業者がグルになって債務者に次々とほかの業者を紹介する「システム金融」や、店舗を持たず、携帯電話で融資を受け付ける「090金融」などが多い。

 県警は昨年7月、多重債務者の名簿を元に法定外の金利で金を貸し付けていたなどとして、東京や埼玉の男2人を貸金業法出資法の各違反容疑で逮捕した。
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