衝撃!給食で「遠心力禁止」になった、カレー“ヒサン”事件

【遠心力ブームの巻】

 日本人って昔っから遠心力が大好きじゃないですか、小さい子を見ると必ず狂ったように振り回す大人がいてね。飲み会かなんかで「どれどれ」って近づいてくるバカが必ずぐるぐるぐるぐる回すんですよ。酷いのになると、それプラス信じられないぐらい高く放り上げるんで知り合いなんか部屋の天井板をブチ抜いたのがいましたよ。で、それほど国民に愛され続けている遠心力なんですが、事と次第によっては毒にも薬にもなるっていう話なんですよ。小学校の給食時間のとき、ふと給食係をやっていたコマツくんが玉子スープの入った鍋を両手で持ってぐるぐる回り始めたんですよ。所謂、〈遠心力の芽生え〉ってやつですよね。で、ぐるぐるぐるぐる回転しながら教室にやってきて、そこで腕がほぼ水平になるほど遠心力をやったら、クラス中から大拍手を貰ったんですよね。で、それを見ていた血ヨダレっていうのがいましてね。血ヨダレっていうのは修学旅行で朝、枕に唇の形に血のヨダレがついていたってところからつけられたアダナなんですけれど、その血ヨダレが自分が給食係になったとき、当時、好きだったマキノさんに自分の力を見せつけてやろうと、俺はおまえを実はこんなに深く強く愛しているんだぞっていうのを遠心力によって伝えてやろうと思ったらしく、もう教室に入ってくるなり鍋の取っ手を掴んでぐるぐるやり出したんですよ。その日の献立はカレーで、鍋のなかには具がぎっしりつまってるわけです。血ヨダレは顔を真っ赤にしてエンシンしてるわけです。マキノ!愛してるぞ!エンシンエンシン!ギュッギュッギュュュ〜ってなもんです。そのうちに腕は水平から少し上がりまして肩のほうまで行きかけた、あの鍋のなかには自分たちが楽しみにしていたカレーが満載。周囲はギューギューキャアキャアと焼き場の動物園のような騒ぎでした。と、その瞬間、取っ手の針金のようなものがボロッと落ちたなと思った瞬間、砲弾のような勢いで鍋本体が窓ガラスを突き破り、飛び出していきました。みんな唖然ボーゼンで。見ると下の花壇にカレーが飛び散っていました。当然、血ヨダレはみんなの突き上げを喰い、クラスの乱暴者の拳でアダナじゃなく、本当の血ヨダレを吐かされたのですが、それから暫くして廊下に「遠心力禁止」という貼り紙が出されたのでした。

 それと親友が昇進したっていうんで庭にゴザ敷いて宴会をしてたんですよ。で、とにかく嬉しい嬉しいで酒も散々飲んじゃって、みんなヘベになってたんですよね。そしたらそいつが一歳にならねえような自分の餓鬼を抱いてきて、こいつ振り回すと喜ぶんだっていうんですよ。そんなまだ赤ん坊なのにダメだろっていうと、「いやいや、本当なんだって。ちょっと変わってるから将来は宇宙飛行士にしようと思ってる」なんつって、肩のところを引っ掴んで振り回したんですよ。そしたら泣くかと思ったらケロケロ笑ってる。ああ、やっぱり種が悪いだけあって子供もだいぶイカレてらあ〜なんて笑ってたら、オヤジがますます調子に乗ってグルグルやったら、スッポーンて服の鳩目が取れちゃって中身が塀を越えて隣の工場に飛んでちゃった。カカアなんか「うぎゃああ」なんつって駆け出してっちゃって、そいつも中身のないおくるみを握ったまま動こうとしない。で、大慌てで拾いに行ったら壁のとこに倒れてた。死んだのかと思ったらセメント塗り立てだったみたいで柔らかいの。で、ようやくしくしくやり出した赤ん坊の顔を洗って一段落だったんですけれどね。いまでもその子、ちょっと鼻が曲がってる。セメントにも暫くは顔の跡がついてましたねえ。ほんと、遠心力っていうのもどうかと思いますが、面白いモンです。

■ひらやまゆめあき 1961年、神奈川県生まれ。短編集『独白するユニバーサル横メルカトル』で「このミステリーがすごい!」2007年度国内部門第1位。小社より春日武彦氏との共著『無力感は狂いの始まり』も絶賛発売中!
イラスト/清野とおる
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