「おサイフ」世界へ発信 ドコモなど、国際規格にくら替え
日本の“専売特許”だった「おサイフケータイ」が一挙に世界標準サービスに拡大する。といっても「日本発」ではなく、新たな短距離無線通信の国際規格「NFC」に置き換わることを意味する。米グーグルのアンドロイド携帯に続き、米アップルもiPhone(アイフォーン)の次期モデルに同規格を採用する見通し。2大スマートフォン陣営の参入で流れは決し、“ガラパゴス”化を避けたいNTTドコモなど日本勢も早急に独自の国内標準からNFCに乗り換える。
◆34兆円巨大市場
スペイン・バルセロナで2月14日に開かれる世界最大の携帯電話見本市「モバイル・ワールド・コングレス」。そこにグーグルやアップル、ノキア、サムスンやLG電子といったスマートフォンの主役たちが集結し、NFCを合言葉に2011年からの新たなビジネスモデルを競演する。その先には、民間調査会社のシード・プランニングが予想するように、15年に約10億台、金額にして約34兆円というNFC搭載端末の巨大市場が見えているからだ。
搭載機の普及加速により、日本ではおなじみとなった携帯電話を読み取り機にかざすだけで買い物などができるサービスが、世界中で始まる。
しかし、日本の携帯電話事業者にとっては、NFCの急拡大は痛しかゆしだ。NTTドコモやKDDI、ソフトバンクモバイルが提供しているおサイフケータイはいずれもNFC準拠とはいえ、日本独自仕様の「Felica(フェリカ)」。アイフォーンをはじめNFCチップを搭載した海外製スマートフォンが日本市場に大量に輸入されれば、フェリカが駆逐されるのは火を見るより明らかだからだ。読み取り機の交換が必要になるケースもある。
◆フェリカ頭打ち
おサイフケータイは、フェリカチップを内蔵した携帯電話や、同端末を利用する決済サービスなどの総称。ドコモの登録商標だが、KDDI、ソフトバンクモバイルなどにライセンス提供されており、国内では業界標準となっている。
フェリカはJR東日本のスイカのほか流通大手や航空会社、マクドナルドなどにも採用されている。しかし、「このところは伸びも頭打ち。ライセンス料に加えて、事実上の国内限定規格なので携帯電話はNFCに替わっていく」(携帯電話事業者幹部)とみている。
おサイフケータイの名付け親であるドコモは「モバイル・ワールド・コングレス」で、同社として初めてのNFC規格の情報読み取りシステムを出展。携帯電話でライブ予約と決済を実演する予定だ。
ドコモは13年をめどに、おサイフケータイの中身をフェリカからNFCに入れ替える。ドコモの端末で、世界のどこでも決済サービスなどを利用できるようにするためには、乗り遅れは許されない。
◆相次ぐ実証実験
KDDI、ソフトバンクモバイルと韓国最大手のSKテレコムの3社は昨年7月に、NFC規格によるサービス基盤の相互利用などの実証実験に着手。「モバイル・ワールド・コングレス」開催前に成果を発表する見通しだ。KDDIは「ドコモより早く提供する」(新規ビジネス推進本部)方針で対応を急いでおり、国内でも、クレディセゾンやトヨタ自動車、全日空、凸版印刷など24社と協力して実証実験を開始。東京・銀座の街路灯110カ所にNFCコードを装着し、携帯電話(100台)で周辺の店舗情報や避難場所などの情報を取得する実験を続けている。
ソフトバンクモバイルも17日にアンドロイドOS搭載のスマートフォンで内外8社と同様の実験を開始したばかりで、3月末まで技術検証などを行う。同社モバイルペイメント企画室の木下直樹室長は「商用サービスを見据えた話も出ており、海外との同期を取りながら進めていく」と述べ、世界で通用するおサイフケータイへの移行を鮮明にする。
国際標準に屈する形だが、サービスではおサイフケータイで培った日本勢には実績がある。NFC採用でそうしたサービスを拡充し、世界の携帯電話市場で日本の存在感を示せるか、真価が問われる。(芳賀由明)
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